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クラシック音楽への愛と悲しみの日々(一枚のLP、CDから「書き尽くす」がコンセプト)
by franz310
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名曲・名盤との邂逅:1.シューベルトの五重奏曲「ます」その60

名曲・名盤との邂逅:1.シューベルトの五重奏曲「ます」その60_b0083728_20324869.jpg個人的経験:
フランスの作曲家オンスロウが、
シューベルトの「ます」と、
同じ編成の作品を
残しているという情報から、
ネット上で探していて
見つけたCDがこれである。

もう数年も前のものなのだが、
入手できてよかった。

Signumは、珍しい作品を出してくれるので、
貴重なレーベルである。

ピアニストのホルスト・ゲーベルがプロデュースしており、
自演を集めたものだが、2曲の録音時期が、
何と20年も離れている。
2曲目は1977年の録音であり、ドイツラジオ放送局の録音から、
持ってきて収録したようだ。
1曲目が、この期待の五重奏曲だが、1999年のデジタル録音で、
このピアニストの執念の結晶みたいにも思える。
30年も前から、オンスロウを手がけていたわけである。

さて、このCDであるが、ジャケットは、現代風で洒落ている。
ただし、どこから、この作曲家の音楽を想像すればいいのか、
悩ましいところではある。
まあ、いやみもなく、すっきりしているからいいか。

下に示したように、解説など(録音データ、演奏者の紹介含む)
もしっかりしていて、演奏も自発的で、録音もよい。

「ジョルジュ・オンスロウ
-A SINGULAR MAN (非凡な男)」
というのが、解説の題である。

何故、そんな題名なのかが、下記のように書き出される。
「十九世紀中盤において、
最も影響力を持っていた作曲家であり、
また、同時代者から批評家、著述家として賞賛された、
ロベルト・シューマンによって、彼はそう呼ばれた。
ジョルジュ・オンスロウは、このように、
独特な個性を持っているとみなされ、
彼の年代の派生的な音楽思考とは別種のものと
捉えられていた。」
「派生的」ではなく、「個性的」なのだ。

「今、また、我々は当時の音楽学者たちの評価とは
まったく矛盾する評価に遭遇する。
次の二つの環境が災いして、
特にフランスでは、オンスロウの作曲能力について、
相変わらず最低の評価がなされている。」

果たして、その環境とはなんなのか?
「a)オンスロウは室内楽以外を書かなかった。
この点で、19世紀の後半にいたるまで、
フランスでは関心を持たれることは極めて困難であった。
b)オンスロウは、イギリス貴族の血を引いており、
この事実は、彼をフランスでポピュラーにすることに対し、
まったく不利であった。
オンスロウ自身は、
オーヴェルニュのクレルモント・フェランドの生まれで、
ジョルジュと洗礼名を与えられ、
父もフランスに移住し、フランスの貴族の一人と結婚していたのに。」

これらは、すでに他のCDでも読んだとおりであるが、
次の逸話は面白い。
「『ON SLOW』という風に描かれている、
その家紋からも、英国風ユーモアが見て取れるが、
これは船乗りの専門語では、「ゆっくり行こう」である。
同時にこの言葉は、
『ゆっくりと確実に』という意味もあるだろう。
この家族がそれに沿って生きてきた積極的なモットーは、
作曲家オンスロウの中にも生きており、
最初期の作品を除くと、
出版されたすべての作品は『完成された』質感を誇っている。」

「知識ある聴衆には、彼の個性的な語法は、
ただちに明らかになり、個性は、全作品を通じたものになっている。
これは、ラフマニノフほどではないが、
ドイツ風の室内楽に、フランスの香水を一滴垂らしたといった以上のもので、
チャーミングでユニークな転調が現れる以上のもの、
あの手この手の繊細なタッチが現れたりする以上のものである。
これがたぶん、オンスロウの音楽が、
一般に大陸の聴衆にしか受け入れられず、
上品なサークルでしか、ほとんど全く理解されなかった理由であろう。」
何故、ラフマニノフが出てきたか、唐突な印象を受ける。
まあ、一生、懐古的な価値観を持っていたということであろうか。

「パリのサロンでは、熱狂的に受け入れられ、
彼が、いつも冬のシーズンに街に戻ってきて、
最新の作品を持って、仲間や友人たちと論議する際には、
いつも、オンスロウの音楽に出会うことが出来た。
しかし、このようなサークルにあってすら、
彼の作品は真の意味での普及を見ることはなかった。
これらの作品の技術的要求は、最高の演奏者によってしか、
満たすことが出来なかったからである。」
なるほど。演奏が非常に難しいという側面もあったのだ。

「オンスロウは、自身の領地にいて、独立した生活を送っていたが、
しばしば主張されていたように、隔絶されていたわけではなかった。
彼はロンドンで、ヒュルマンデルやクラーマーにピアノを学び、
彼の文化的憧れの地、ドイツ、オーストリアでも、2年間勉強した。
パリではライヒャに作曲と理論を学び、
ロンドンのフィルハーモニックソサエティで、
メンデルスゾーンやオーベール、マイヤベーアと共に、
最初のメンバーの1人となっているし、
後にパリの学士院では、ケルビーニの後任に就いた。
孤独ではなかったが、オンスロウは確かに、
例えば、後のフランスのベルリオーズと同様、
ファンに囲まれることなき、一匹狼であった。
室内楽の偉大な作品は、群集をひきつけることはないが、
音楽に最高の瞬間をもたらすものである。
専門家は、オンスロウの重要さをきちんと認識していた。
シューマンの評価や、彼が受けた栄誉から離れても、
フランスの作曲家仲間も、事実、多くの言葉を残している。
例えば、ベルリオーズは、1830年に父親に宛てた手紙の中で、
『ベートーヴェンの死後、器楽の王者は彼であることが分かるでしょう』
とオンスロウのことを書いている。
また、シューマンもケルビーニの四重奏曲へのレビューの中で、
『メンデルスゾーンやオンスロウが四重奏曲の大家に含まれる』
と書いている。」

「時代が忘れようとしたのか、自然に忘れられたのか。」
こんな命題が、改めて提示される。
忘れられた作曲家、オンスロウのCDでは、必ず、この問題が触れられる。

「いくつかの重要な記事で、音楽史に貢献した、
有名な19世紀の学者ウィルヘルム・ハインリヒ・リールは、
エッセイの中で、こう書いた。
『英国の作曲家に加えるべきではない。
オンスロウの作品はドイツの音楽史の一部以上のもので、
ドイツ人は特に、この外国人の思い出を、
芸術家として、我々の文化の一部として、賞賛する責任がある。』」

このCDでの趣旨は、英国生まれで、フランスで活躍し、
ドイツ風の音楽を書いたオンスロウの国籍不明性に焦点を当てている。
たしかに、オンスロウの死後、これらの国々は、何度も戦争をしたので、
こんな、芸術的に根無し草的な人物は、胡散臭いと思われたとしても、
まったくおかしくはない。

「このCDでは、オンスロウの後期の作品より、
ほぼ同時期の、二つの大規模な作品を特集した。
ピアノ、ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロ、コントラバスのための、
大五重奏曲作品76と、
ピアノ、フルート、クラリネット、バスーン、
ホルンとコントラバスのための大六重奏曲作品77bである。
五重奏曲では、ライプツィヒのクリスナー社の第一版を使用、
六重奏曲は、1851年版を1972年にパリのHeugel社が、
シュミットの校訂によって再版したシリーズのものを使用した。」

オンスロウは膨大な室内楽を書いたようだが、
私が持っているCDと、二曲目が重なっている。
できれば、せっかくなので、他の曲も聴いてみたかった。
ざっと聴いた感じ、
前のユボーらの演奏より、一本気な演奏かもしれない。

「ト長調の純粋な音楽美を示す、
作品76の五重奏曲の第一楽章は、
序奏部と、ラルゴ-アレグロの部分を有し、
主題の材料は、一見、聞きなれたもののようで、同時に、何か新しいもので、
輝かしく作り上げられていって、完全に提示される。
楽章全体は、叙事詩的であり、
しばしば、オンスロウの音楽の中で出会う、
叙事詩、抒情詩混在の『バラード』調で語られる。」

私は、この楽章には、大きな感銘を受けた。
思いのたけをぶつけるような序奏部から、
暗い情念を秘めた音楽で、求心力もあり、聴き応えがある。
ピアノと弦楽も高い次元で調和して、互いの応酬が、目まぐるしい。

ヴァイオリンで提示され、チェロに受け継がれる第二主題は、
美しく、かつ、深い意味を感じさせて、胸を打つ憧れの音楽となっている。
叙事詩的、バラード風というのも、分かるような気がする。
また、ここに突然、リズミックな楽想が割り込んでくる場面など、
あくまで、深刻になりすぎない趣味人オンスロウの面目躍如としたものである。

この演奏のヴァイオリンの、練り絹のような響き、自発性にも好感が持てる。
演奏はベルリンドイツ交響楽団のソリストとあるが、
Hans・Maile、Igor・Budinstein、Andre・Saad、Akira・Akahoshi
という名前が並んでいる。コントラバスは日本人である。
(解説によると、N響や桐朋で教えたベテランで、ドイツ在住とある。)
さすがコスモポリタン作曲家。

前述のように、ピアノはHorst・Gobelで、プロデューサーを兼ねている。
(したがって、二曲めも同じピアニストであるが、協演は異なり、
ベルリンフィルのオーケストラアカデミーの人たちとの演奏である。)

積極的で推進力あるピアノ、ヴァイオリンの美音に加え、
時折、チェロも、甘味で量感のある音色を響かせるのも、オンスロウ的だ。
前回、書いたように、これが魅力であることは言うまでもない。
ただし、せっかくのコントラバスの存在感はまるでない。録音のせいか。
ドラゴネッティが怒る。

「続くスケルツォは、下属音のハ長調、
6/8拍子のアレグロ・ヴィヴァーチェであるが、
中間部の歌に満ちた部分も8分音符で満たされている。
愉快なアクセントと、弱いビートが効いている。」

先ほどまでの、深刻な雰囲気は一掃され、
妙に気ぜわしい、軽妙な音楽である。
ここでは、ピアノと弦楽が対立的に扱われていて、
ブラームスのピアノ協奏曲の軽量版みたいな趣きである。
改めて、考えてみれば、第一楽章の主題は、
ブラームスの第一ピアノ協奏曲そっくりだ。

「アンダンティーノ・モルト・カンタービレの冒頭部を持つ、
第三楽章、ホ長調の『ロマンス』は、
オンスロウのずっと早い時期の作品の流用で、愛好家を面食らわせる。
それは、彼の最初の四手のピアノソナタ・ホ短調作品7であって、
ここでも『ロマンス』と呼ばれていた。
これら二つのバージョンの顕著なテンポの違いは、
もっぱら違う楽器を使うことによるものであり、
最後の15秒だけが違っている。
また、そこには違ったサプライズが用意されている。
チェロが五重奏曲の最初と最後で壮麗な効果を上げているのに、
中間部ではオンスロウはドラマティストになりきれなかったのであろう、
そのピアノソナタでは、考えられる限り、民謡的な傾向を示している。
五重奏曲では、恋人たちが口論しているような間に、今にも喧嘩が始まりそうだ。」

この楽章、序奏は、ショパンのピアノ協奏曲のようにロマンティックだが、
いきなり、唐突に、奇妙にリズミックで劇的な音楽が始まる。
男女のやりとりを模したサロン的性格など、ウェーバーを思い出した。

「アレグロ・アニマートに導かれる
五重奏曲の終楽章は、フランスの標題音楽の最初の一例であろう、
『風のそよぎ』という標題を持ち、
ピアノと弦楽は、順番に幾分、効果的な風の音を作り出す。
さらに自然を描写したような部分が続き、
我々は音楽的な田園詩の世界を通って、
必然的なハッピーエンドに至る。」

ちろちろ、どろどろと、細かい音形が繰り返され、
弦が、びゅーっと引き伸ばされて、何となく戯画的な音楽。

どうして、ブラームス、ショパン風のシリアスな調子から、
このような展開になるのか、理解に苦しむ。
あるいは、趣味の作曲家の、余裕のなせる業であろうか。
ブラームスも、第二ピアノ協奏曲では、軽やかな終楽章を用意したので、
あるいは、これもまた、何か思惑があるのかもしれない。

ということで、各楽章に工夫が凝らされ、
非常な力作であることは確か。一聴の価値も、二聴の価値はある。
何度も書くが、第一楽章など、とても良い。
終楽章は、それを支えていない感じ。

得られたこと:「オンスロウのピアノ五重奏曲は、確かにシューベルトと同じ編成。ただし、内容は異なる。ブラームスの元ネタ風のシリアス音楽であるが、最後にハイドン風になる。」
by franz310 | 2007-03-03 20:55 | シューベルト
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