名曲・名盤との邂逅:1.シューベルトの五重奏曲「ます」その34 |
個人的体験: フェスティヴァル四重奏団の 「ます」は、CD化されていた。 RCAの創立100年記念として、 「レッド・シール・ ヴィンテージ・コレクション」 というシリーズが5年ほど前に 出たことがあり、その一枚に 含まれていたのである。 貴重な録音が、リマスタリングされ、 オリジナルのジャケットで出されるというので、 私は、モントゥーの指揮による交響曲や、 コーガンのヴァイオリンによる協奏曲を、 いそいそと購入した記憶がある。 レッド・シールにあやかって、 CDの盤の色は鮮やかな赤に染められ、 強い印象を残していた。 しかし、この四重奏団のCDは、2枚組で値段が倍するし、 正体がよく分かってない当時のこと。 メインはブラームスのピアノ四重奏曲ということで、 すっかり記憶からぶっとんでいた。 ブラームスの四重奏は、後にシェーンベルクが、 交響曲に編曲したように、強烈に分厚い室内楽である。 それが三曲も集まって、さらに暑苦しさを増倍させている。 気楽に買える代物ではない。 今回、ブラームスのコーナーに、 かろうじて売れ残っているものを購入した。 ジャケットはなかなか渋いが、 このメンバーが何たるかを知らなければ、 眼光鋭いシカゴの黒幕と言われても納得がいく。 とはいえ、かつて出ていた見開きジャケットLPより、 ちょっと希少価値を感じる。 さらに、中にはもっと格調高い写真が収められ、 ゴールドベルク夫人の回想も、読み応えがある。 とはいえ、どうしても、プリムローズは変なおっさんとしか思えない。 興行主的であると共に、飛行機の操縦もするという、新人類タイプの音楽家。 そんな肖像画が垣間見えるのである。 面白いのは、ピアニストのバビンがシュナーベルの弟子だということ。 この人が、もっともフェスティヴァルに帰属した人で、 アスペン音楽祭を開催したアスペン音楽大学の校長であり、 その招きで、あとの三人はアスペンに集ったというのである。 シュナーベルも教授風のきっちりしたピアノを聴かせたが、 バビンもまた、非常に手堅い演奏をしている。 前にも書いたが、弦楽器が独特の歌い口で、こぶしを聴かせるのに対し、 ピアノが入ってくると、さっと、音楽に流れが出てくる。 序奏からして、その傾向は顕著である。 最初の弦の入りがすでに、万感の想いを背負っていて、 続いて流れるピアノは、「それはいいから、進みましょう」という感じで、 軽快に流れていく。 あと、驚いたのは、グラウダンがベルリン・フィルの主席チェリストだったということ。 ヴァイオリンを弾いているゴールドベルクはコンサートマスターだったので、 ミニベルリン・フィルを、連合国のバビンとプリムローズが、統率している感じになる。 中の解説に、このベルリン二人組がロサンゼルスで道に迷い、 車社会なので、誰も歩いている人がいない。 やっと歩いている人を見つけたら、トーマス・マンだった、という逸話がある。 この話からも、戦後10年かそこらで、 敗戦国の伝統を背負った二人と、 戦勝国の文化的勝利と、その未来を信じられた二人の、 小さなギャップがあったように思うのは考えすぎだろうか。 ブラームスの四重奏曲は、いずれも、恐ろしく痛切な緩徐楽章を持っているが、 ここでは、弦楽の歌がことのほか、心に響く。 録音は1957年、場所はニューヨークとある。 てっきり、アスペンという暑そうな場所で録音されたと思っていたら、ちがっていた。 音質は、RCA特有の硬い感じのもので、LPから大きく改善されたようには聞こえない。 ただし、終楽章近くになると、さすがにLPは詰め込みすぎの影響が感じられる。 その分、このCDの方が安心である。 とはいえ、かなり、愛好家向きの企画である。 中の解説は、ものすごく面白かったが、 初めて、この曲を楽しもうとする人には、ちょっと厳しい。 12ページも解説があるが、 シューベルトの「ます」という曲については、 そのうちの1ページのわずか20%。 9行しか使っていない。 要約すると、 「コントラバスが目新しい」、 「異例の5楽章形式」、 「牧歌的詩情」、 「ディベルティメント風の楽しさが主流を占める」 という4点が書かれているのみである。 しかしながら、コントラバスのサーキンが何者かは書かれていない。 得られたこと:「50年代アメリカは、戦後価値観の葛藤の修羅場であった。」 |
by franz310
| 2006-09-10 22:00
| 音楽
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