名曲・名盤との邂逅:1.シューベルトの五重奏曲「ます」その37 |
個人的体験: R・ゼルキンの息子、 ピーターは、 後年、タッシと「ます」を 録音するが、 それに先立って、 いや、その父の録音にも 先立って、 シューベルトの「ます」 の録音を残している。 コントラバスは、ジュリアス・レヴァインが担当しているが、 これは、父のレコードでも、存在感ある低音を響かせていた人だ。 父は、息子の録音を聴いただろうか。また、意識しただろうか。 先年、そのCDが復刻したが、 ジャケットが頂けないので、なかなか購入する気にならなかった。 ヴァイオリンのシュナイダーのアップで、 この人に責任はないが、こんなジャケットが、 「ます」のCDとして、適当かどうか、 検証する人はいなかったのであろうか。 ピアノ五重奏の中の、一人を取り出して、 代表させてしまうというのは、あまりにも乱暴すぎないか。 それについては、シュナーベルのLPの項で述べた。 父ゼルキンの録音も、ゼルキンが一人年配の大家で、 音楽監督のような感じだったが、ここでは、 シュナイダーがその役割を担っているのは確かである。 何故なら、ピアノを弾くピーター・ゼルキンは、 この録音の時点、1963年には、まだ19歳の少年であるし、 残るヴィオラとチェロも、すこし年上といった年齢である。 この、トゥリーとソイヤーは、翌年、四重奏団を組織する。 (このソイヤーについては、この前紹介した、「チェリストの物語」でも、 カザルスが指導した生徒の一人として登場する。 カザルスが演奏中に、「うーうー」言うのと同様、このチェリストも、 「うーうー」言うと書かれている。) 現代、最も歴史ある活動を続けている「グァルネリ四重奏団」である。 この四重奏団結成前夜、他のヴァイオリンと浮気した録音とも言える。 ただし、このヴァイオリンのシュナイダーは、1908年ロシア生まれ、 ゼルキンと同様、アメリカ亡命組で、この録音の時、55歳ということになる。 父ゼルキンは、ちなみに1903年生まれなので、 このCDのヴァイオリンとピアノは、父と子くらいの関係である。 ヴィオラとチェロもそんなものであろう。 ということで、上述のごときジャケットになったのだろうが、 シュナイダーは、きっと、こんなジャケットを望んではいなかっただろう。 きっと、他の仲間にもライトを浴びてもらいたかったはずだ。 まさか、ギャラも独り占めしたのではあるまいな。 そのために、丸め込みやすい若手を、引き連れてきたのではあるまいな。 シュナイダーという人は、ゼルキン主催のマールボロの音楽祭にも関係したし、 カザルスとも仲がよく、さまざまなイベントを主催した。 あのヴィオラのプリムローズを思い起こさせる活動家である。 こんな人が、そのような事をするわけがないのである。 そもそも、それならレヴァインを起用する必要はないわけだ。 この録音、シュナイダーがこの時期に録音したということでも、 聞かずにはいられないような心境になる。 何故なら、アレクザンダー・シュナイダーは、この頃、 名門ブタペスト四重奏団の第二ヴァイオリンを勤めていた。 チェロは、兄弟のミッシャ・シュナイダーである。 つまり、ブタペスト四重奏団が、「ます」を演奏する時は、 この曲では、ヴァイオリンが一人で良いので、 第一ヴァイオリンのロイスマンが弾き、 いつも、シュナイダーは、仲間はずれにされるわけだ。 実際、この少し前に、ブタペスト四重奏団は、ピアノに、ホルショフスキーを迎え、 「ます」の録音を残している。なんと、コントラバスは、やはり、レヴァインである。 演奏は、どうも、よく分からない。 ヴァンガードレーベルの録音は、何となくアメリカ的な薄っぺらさを感じる。 レヴァインのコントラバスにも、あまり存在感がない。 録音のせいかもしtれないが、あまり深みのない演奏である。 演奏も、よく流れて美しいのだが、どうも、ハーモニーの綾のようなものが希薄。 どの楽器も、音色は美しく、すいすいと行くのだが、「ます」が泳ぐには、 深さが足りないのである。豊かさと言ってもいいし、情感と言っても良い。 歌い方一つとっても、あっさりしていて、呼吸が浅いような気がする。 ソイヤーの「うーうー」が、うるさくてもいいから、聴きたいくらいである。 不思議な演奏&録音である。 ピーターの父は、これを聴いて、あの録音を決意したかもしれない。 比較してみると、こうした息遣いの豊かさ、響きのこくといったものが、 4年後の父の録音では、すべて、改善された名演になっているのである。 名手シュナイダーは、ここで、いったい何をしたかったのか。 「ヴァンガード名盤選」というシリーズだが、録音年しか書かれておらず、 録音場所や、日付までは書かれていないのが物足りない。 得られること:「演奏時の息遣いや、ハーモニーの豊かさが、音楽にこくや深みを与える。」 |
by franz310
| 2006-09-24 00:30
| 音楽
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