名曲・名盤との邂逅:1.シューベルトの五重奏曲「ます」その36 |
個人的経験: ゼルキンや ラレードたちの、 フレッシュで含蓄のある 「ます」の演奏を 聴いていると、 彼らが集った、 「マールボロ音楽祭」 なるものの、 実態が気になってくる。 そういえば、1990年代初頭に、ソニーから、 「マールボロ音楽祭40周年記念CD」というシリーズ10枚が、 発売されたことがある。 その帯を見ると、「マールボロ音楽祭40年の軌跡」という、 ブックレットのプレゼントもあったようだ。 写真多数、40年間の全参加者名入りという、 かなり、気になるものだ。 しかし、92年7月までに申し込め、 とあるから、今さらどうなるものでもあるまい。 あと、30年くらい生きていたら、古本屋で見つかるだろうか。 とはいえ、このシリーズのいくつかのCDの解説からも、 ある程度の知識を与えてもらうことが出来る。 特に、ゼルキンが、ブッシュ兄弟の弦楽と共演した、 シューベルトの「ピアノ三重奏曲第二番」は、 演奏もさることながら、7ページにわたって、 ブッシュや音楽祭について書かれた解説が、 とても充実した内容になっている。 (曲の解説も、さらに7ページが費やされている。) 例の、ゼルキンの「ます」のCDには、こうした配慮が欲しかった。 さて、この解説の中で書かれていたことによると、 この音楽祭は、スイスの(ルツェルン?)音楽祭をモデルに、 大ヴァイオリニストのアドルフ・ブッシュが構想したとのことが述べられている。 アメリカでは、有名になることばかりが追求され、 早く、大きな音で弾くことが、高い金やキャリアにつながると、 考えられているので、そうした考えを改める必要があるとも考えていたようだ。 ブッシュの娘は、ゼルキンと結婚しており、 彼らを中心に、田舎町での音楽祭が始まった。 あの「ます」のレコードのジャケット写真、 明るい窓の外は、森や野が広がっていたのであろう。 解説の終わりの方には、この人が、 ブッシュやゼルキンと過ごした日々への追想が、 美しく語られているが、書いたのは、フィリップ・O・ネーゲル。 1928年ドイツ生まれのヴィオラ奏者とある。 そう、あの「ます」の演奏でのヴィオリストである。 さらに、このシリーズの中にある、 カザルス指揮による、モーツァルトの、「アイネ・クライネ・ナハトムジーク」は、 なんと、あの「ます」の演奏の一ヶ月ほど前の演奏だ。 ここには、マールボロ音楽祭管弦楽団の下に、 ずらりずらりとメンバーの名前があって、いるいるという感じ。 ヴァイオリン、チェロ、コントラバスの主席に、 あの「ます」のラレード、パルナス、レヴィーンの名が見える。 ヴィオラには、先のネーゲルの名前が見え、 主席には、ジュリアード四重奏団のサミュエル・ローズが座っていたことがわかる。 ヴァイオリンの欄には、日本人の名も三人連なり、 さらには、ボーザール・トリオのイシドア・コーエン、 チェロには、ブッシュの弟のヘルマンの名もある。 なんと、ドイツの至宝のごとき、ブッシュ兄弟と、 我々にも身近な日本の奏者が、 神様、カザルスの指揮の下、一緒になって音楽を追求していた。 このとき、カザルスは90歳を越えた高齢であった。 それがまた、ジャケット写真に見られるような、 アメリカの片田舎の山小屋のようなところだったというのが、 感慨深いではないか。 こんなことが起こりうる場所が、マールボロであり、 ブッシュ、ゼルキンらの人徳のようなものが、 これを成し遂げたと考えると、あのような「ます」の演奏が、 可能となった背景も推察できるような気がしてくる。 得られたこと:「購入後十数年してから、改めて参考になるCDも存在する。」 |
by franz310
| 2006-09-18 13:49
| 音楽
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