クロメダカちゃん、ベアトリーチェとの別れ |
遂に水槽のもとに明らかになった、 「モバイルめだCA計画」。 僕たちの体が、 なんと、電子マネーに使われる計画だったなんて、 今まで、誰も教えてくれなかったぞ。 ということは、この体の中には、 あの忌まわしい垂直磁気記録型のHDDだけでなく、 電子マネーが出たり入ったりするための、 通信手段が入っていることになる。 いったい、どこにそんなものが? 僕は、さっき、なんと金魚の口に、 イヤホンジャックだか、USBのソケットだかを、 取り付けようとした話を聞いたばかりだったので、 慌ててムナビレを口の中、エラの中に突っ込んだり、 セビレ、ハラビレ、シリビレ、オビレ、腰のクビレ、フカヒレなど、 考えられる限りのヒレを悪びれることもなく、くたびれることなく動かしてみたびれ。 どこもかしこも怪しかった。 赤外線通信か、はたまた無線LANの電波なのか。 水中で、そんなものが通用するのだろうか。 それにしても、ちょっとした振動試験で、 みんなの体が持たなかったことは、 これでもう、明々白々ではないか。 あらゆるものを詰め込みながら、 小型軽量を優先させるあまり、 強度偽装を装わなければ、 商品にならなかったということだ。 これは一介の一級建築士の責任だけを問うて済む問題ではない。 旧制ロシアの富豪の未亡人の援助を受けながら、 JR麩菓子日本とか、JR倒壊とかが、社内的に検討しているだけだったなら、 まだ弁明の余地もあったかもしれない。 しかし、政府の機関であるデパ屋総務庁がからんでいたとすれば、 これはスキャンダラスな大問題だ。 そんな危険な試作品を、善良なる民間人に500円で売りつけたのである。 その時、ぴっと青いランプが視界に飛び込んで来た。 僕は驚いて、ムナビレで瞳を覆った。 それでも、光線が、僕の頭の中にじわじわと染み込んでくる。 ああ、これはいったい、どうしたことか。 「ふぉっふぉっふぉっ、好奇心旺盛なクロメダカちゃんに忠告しておこう。 この問題には、これ以上立ち入らないことだ。」 僕の頭の中にがんがんとこだまするのは、 誰あろう、あのデパ屋のペットショップのおっさんの声であった。 その声を聞いて、 一瞬、僕は今までのすべてが夢で、 目が覚めると、あのデパート屋上の水槽の中で、 ヘクトールやアキレウスたちと、元気にぴちぴち泳いでいるような、 そんな錯覚さえ覚えたものだった。 しかし、ろ過フィルターの音がぶくぶくと響いているのは先ほどと変わらない。 深いところでは、ピラニア軍団が、ゆうゆうと回遊しているのも、決して夢ではなかった。 僕は、回りを見回した。その怪光線がどこから来たのかを確かめるために。 そして、いとおしいベアトリーチェの姿を求めて、大きな目をぐるりと動かした。 「ああっ。」 僕は息を呑むしかなかった。 先ほどまで、あんなに優美に泳ぎ回っていたベアトリーチェ。 大切な僕の導き手が、うつろに目を見開いたまま、水面に浮かんでいるのを、 僕は目を見開いて凝視するしかなかった。 僕は彼女のもとに走り寄り、思わずその体をひしと抱き寄せた。 「ク、クロメダカちゃん。 私はもう動けなくなりました。」 「な、何ですって?」 「その高周波・・・。」 「ああ、何があったのです?麗しのベアトリーチェよ。」 「あ、あのオスヒメダカちゃんと同じです。 わ、私たちの体は、あなた方の新型回路が出す、 き、強力な高周波に耐えられるようには設計されていないのです。」 「私の体からの高周波?」 「そ、そうです。つ、通信手段が内蔵されてから、 け、桁外れの処理能力が要求され、あ、あなた方の体からは、 わ、私たち旧型のメダカには耐えられないような、 で、電磁波が、は、発生しているのです。」 僕がさらに近づいたせいでもあろうか、ぴくぴくと痙攣し、 ベアトリーチェは、完全に意識を失い、まさに息を引き取るところであった。 たとえ、銀河鉄道に乗ったとしても、決して、機械の体は欲しがるまいと、 僕はその時、ろ過フィルターのぶくぶくに誓った。 |
by franz310
| 2006-07-13 00:03
| どじょうちゃん
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