名曲・名盤との邂逅:1.シューベルトの五重奏曲「ます」その12 |
個人的経験、演奏、デザイン、解説比較: さて、このデムスのピアノ、 コレギウム・アウレウム合奏団員による 「ます」の演奏は、CDにも復刻されている。 音も良いらしいので、私も、さっそく購入した。 (株式会社BMGファンハウスより。) しかし、このジャケット・デザインは、 いったいどうしたことだろうか。 はっきり言って、躊躇する写真である。 潤いがなく、癒し系ではない。 実は、この復刻は2枚組になっており、 かつて別々に出ていたレコードを無理やりひとつにしている。 (こういうところにも、レコード会社の涙ぐましい努力が見られる。) 2枚で1枚分価格のお買い得商品なのだが、表紙デザインに採用されたのは、 2枚目に収録された「弦楽五重奏曲」の、オリジナル・ジャケットの方だったのだ。 「ます」の五重奏曲が、シューベルトの若き日の記念碑だとすると、 この「弦楽五重奏曲」は、晩年の境地を示す、もうひとつの傑作である。 若書きと、到達点の比較では、分が悪すぎる。 「ます」の解説を読んでいても、シューベルトの「五重奏曲」では、 わざわざ、晩年の「弦楽五重奏曲」の方が価値が高いとする、 大きなお世話の解説者がいるくらいである。 ということであろうか、「ます」の干物が転がっていそうな岩山が被写体となっている。 これに何の意味があるかは分からないが、青い空と、赤茶けた荒地の対比が、 妙に記憶に残る、意味ありげな写真であることは確かである。 (とはいえ、デザイナーの名前は特筆されていないので、 たいした写真ではないのだろうか。) LPの方には、使用楽器などはかなり詳しく書かれているが。 コレギウム・アウレウム合奏団は、一世を風靡した団体だったが、 その後、雨後のたけのこのように、作曲家が想定していた当時の楽器に執着する、 「オリジナル楽器」使用の団体が増殖し、 かつ、徹底的に文献をあさりまくって、当時の奏法やら音程やらテンポやらを、 推理しまくって、実験しまくって、歴史的解釈を大言壮語したために、 彼らのやり方は不十分だった!と糾弾されてしまった。 ということで、かつてのステータスは限りなく地に落ちているので、 レコード会社も、引け目を感じながら商品化をしている可能性がある。 だから、「2枚抱き合わせ作戦」で来たのだと思う。 (以前、モーツァルトのシリーズで使われた時は、3枚抱き合わせだった!!) それでも、再発売してくれないよりは、数倍正しい。 知恵を使って、商品化ベースに乗せている姿に感謝しておこう。 とはいえ、このジャケットを見て、「ます」を聴く初心者は可哀想。 そんな人いないかな。 (いないんだったら、やっぱり商品化のプロセス見直して欲しいな。) そもそも、弦楽五重奏曲の方だって、こんな荒涼たるイメージかなあ。 空に向かって一本そびえ立つ、この木のように、究極の室内楽、という気もするけど。 では、仰々しく、「オリジナル・ジャケット」と共に、「オリジナル・ライナーノーツ」と、 銘打たれている解説の方には、どんな事が書いてあるだろうか。 1.避暑地で裕福な鉱山業者に依頼されて作曲されたこと、 2.自作の歌曲のメロディを、器楽曲に転用して使うことが、この作曲家の場合、多数あること、 3.チェロが歌えるようにコントラバスが使用されていること、 などが書かれている。 シューベルトがまだ若かったこと、避暑地が美しかった事(美しくない避暑地はない?)、 娘たちも美しかったこと、歓迎されたこと、などには触れていない。 ただし、「美しい旋律にあふれ」とか、 「全体に若々しい魅力をたたえている」とかいうフレーズは、 これから聴く者には注意を呼びかける効果を持っている。 また、各楽章についても、簡単ながら、特徴を明記しているのが好ましい。 これによって、ふむふむ、確かにそうだな、と安心して聴き進むことが出来る。 昔のコピーを流用して、「オリジナル何とか」と能書きするのも、涙ぐましいが、 オリジナル楽器が売りだったのに、使用された楽器の詳細についての記述の省略は、 画龍点睛を欠くような気もする。 (ただし、ジャケットはオリジナルが有無を言わさず好ましい。) ちなみに、この「ドイツ・ハルモニア・ムンディ」は、 私の好きなレーベルなので、ほかのCDにも、特筆したいものが多い。 したがって、あまり冷静な判断が出来ない。 得られること:「レコード音楽は、時として、そのレーベルのブランドイメージに左右される。」 |
by franz310
| 2006-05-04 23:06
| 音楽
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