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クラシック音楽への愛と悲しみの日々(一枚のLP、CDから「書き尽くす」がコンセプト)
by franz310
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名曲・名盤との邂逅:1.シューベルトの五重奏曲「ます」その422

名曲・名盤との邂逅:1.シューベルトの五重奏曲「ます」その422_b0083728_156036.png個人的経験:
イギリスの古楽団体、
セレニッシマを率いる
チャンドラーのヴィヴァルディは、
収録された各曲への思い入れや、
膨大なこの作曲家の作品の中から、
いかにして選曲してCD化したかを、
きちんと説明してくれていて、
彼のヴィヴァルディ傾倒に、
ついつい引きずられて
聞き入ってしまうことになる。
AVIEというレーベルは、
良く知らないが装丁も美しい。


気鋭の奏者が共感に富んだ演奏を聴かせ、
録音も良いので、ついつい聴き進めたくなる。

そんな彼らが、2000年代後半に、
「北イタリアのヴァイオリン協奏曲の興隆」
と題したCDを三つ出している。

これは、さぞかし、勉強になりそうだと、
まず一巻から聴き始めた。
「ヴィルトゥオーゾの夜明け」というタイトルから
気になってしょうがないが、
アルビノーニとか、ヴィヴァルディの作品もあり、
無名の先達ばかり集めたCDにあり勝ちの、
興味本位に陥ることはなさそうだ。

いかにも素性の悪そうなおっさんばかりの
表紙の絵画からして、興味半減になるが、
さすが、このオタク向けレーベル、
これに関しても、いろいろ能書きがあった。

アントニオ・ドメニコ・ガビアーニ(1652-1726)作
「1685年、メディチ家の
フェルディナント王子宮廷の音楽家たち」
(カンバスに油彩)とある。
「この録音のトラック1-24の
アンサンブルと同様の器楽アンサンブルが
見て取れる」とあるが、
7人のうち5人が弦楽四重奏+アルファの弦楽で、
マンドリンとチェンバロが見える。

あまり、協奏曲を演奏しそうなメンバーとは思えないが、
この中の何人かが、超絶技巧を聴かせるのだろうか。

「この音楽家たちを抱えていた、
メディチ家のフェルディナント公は、
ヴィヴァルディがのちの1711年に、
『調和の幻想』作品3を献呈する人である」
とあるから、狭いスペースに、
おっさんたちが緊張してポーズを取った、
非常にむさ苦しい構図ではあっても、
これは、ヴィヴァルディを演奏する際、
何らかの参考にするべき、
極めて重要な絵画であると考えられる。

どのような編成で演奏されたかが、
よくわかったところで、
ブックレット内の「セレニッシマ」という、
このCDの団体のメンバーの寛いだ写真を見ると、
チャンドラーが、本当に、
この絵画を参考にしたのか、
疑わしくなる。

13人のメンバーが写っているし、
3人は若い女性で、華やかな感じ。

さらに演奏者名を追っていくと、
ヴァイオリン6、アルト・ヴィオラ1、
テノール・ヴィオラ2、チェロ、ダブルベース各1で、
弦楽だけで10人もいる。
テオルボにバロック・ギター、
ハープシコード、オルガンと、
通奏低音が豪勢である。

が、このCD、トラックが39もあって、
アルビノーニだのヴィヴァルディだの、
有名な人が出てくるのは、
まさしくトラック25からなのである。

「セレニッシマは、ヴィヴァルディの
『セーヌの祭典』(RV693)を演奏するために、
1994年に創設され、
10年後に正式に、ヴィヴァルディと、
その同時代の音楽を演奏する、
指導的な団体として発足した」とあるから、
劇場音楽に対応できる編成を持っているようだ。

表紙の編成で演奏されるトラック24までは、
フランチェスコ・ナヴァラのシンフォニア、
作曲家Xの「ラウダーテ・ペウリ」、
ジョヴァンニ・レグレンツィの「3つのバレットとコレンテ」、
再び、ナヴァラの「シンフォニア」が並ぶ。

後半は4曲あって、最後の2曲がヴィヴァルディで、
その前に、トマゾ・アルビノーニの協奏曲、作品2の8と、
ジュゼッペ・ヴァレンティーニの協奏曲、作品7より、
が収められている。

つまり、「ヴァイオリン協奏曲の興隆」とはいえ、
前半のものは「協奏曲」という
タイトルではなさそうである。

一筋縄ではいかなそうなので、
さっそく、解説の本文を見ていこう。

「1600年代の初期には、
器楽曲の出版が劇的に増加し、
それが今度は、その消費者によって、
さらなる技法の熟達がもたらされた。
最も好まれた楽器は、
ヴァイオリンとコルネットであったが、
ヴァイオリンは機敏なゆえに生き残り、
コルネットを駆逐した。
広い音域、大きな跳躍、
ダブルストップやエンドレスな楽句演奏で、
ヴァイオリン族は、
器楽でも声楽でも作曲家に不可欠となった。
北イタリアから、
こうした名手が出て来た事は偶然ではなく、
この地は良く知られた、
この楽器発祥の地であり、
クレモナとブレスチアという、
二大産地を抱えていた。」

ということで、期待にたがわぬ書き出しぶりである。

「トリオ・ソナタと、
4声か5声からなるオペラ用のシンフォニアが
1650年代に現れ、
アンサンブル・ソナタの創造の引き金となった。
このジャンルは、ベルガモ出身で、
1672年にヴェネチアに移り住んだ、
ジョヴァンニ・レグレンツィなどの作曲家の、
基本形式となった。
彼の作品8(1663)や作品10(1673)は、
ジョヴァンニ・ガブリエリの
『サクラ・シンフォニア』(1597)の伝統に則った、
様々な編成で書かれたアンサンブル・ソナタであるが、
彼の甥のジョヴァンニ・ヴァレスキーニによって、
死後に出版された作品16は、
その30年に起こったアンサンブル・ソナタの
基本的編成を反映している。
全てのセットが、北イタリアの、
2つのヴァイオリン、アルト・ヴィオラ、
テノール・ヴィオラとチェロの5部に、
ハープシコードの通奏低音という編成となっている。」

という事で、最初は、ヴェネチアの器楽の基準は、
ガブリエリのような管楽だったのが、
古典的なものに近い弦5部となっていったが、
その流れに乗った人として、
レグレンツィが取り上げられたようだ。
この人の作品は3曲目に出てくる。

「作品16は、9対の小品からなり、
おのおの、バレット(舞曲の動きの包括的呼称)と、
コレンテ(舞曲形式)の組み合わせで、
バレットでは、レグレンツィは、
多くの場合、アルマンドとし、
コレンテは、3/4、6/4、
3/8、6/8、12/8拍子といった、
様々な拍子の舞曲の複合体とした。
ここで、おそらく売上を増やすためであろう、
コレンテはポピュラーなヴェネチアのダンスであった。
ダンスはジーガ(第2コレンテ)、
サラバンダ(第5コレンテ)、
フォルラーノのスタイルのフランス風ロンド(第7コレンテ)、
それからシャコンヌ(第9コレンテ)を含んでいる。」

レグレンツィのバレッティは、
最初に解説があるくせに、
登場するのは、Track15.になってからである。

ジーグやアルマントとあると、
バッハの時代の組曲のようだが、
1分前後の曲の集合体で、
シューベルトの「レントラー集」みたいな規模。

各曲は、異なる舞曲であって、
それぞれが、気分転換とか、
口直しみたいな音楽になっている。
シンプルな音楽だが、
演奏には、共感と活気があって、
打楽器の扱いや、節回しには、
様々な工夫を凝らしている。

次に、もう一人の知られざる作曲家、
ナヴァラの解説に入る。

「1695年、フランチェスコ・ナヴァラは、
マントヴァ宮廷の楽長に任命された。
彼の生涯についてはあまり知られておらず、
(英国の?)ダラムの大聖堂図書館に収蔵された、
2つのシンフォニアなど、
ほんのわずかな曲が残されているにすぎない。
イ短調の作品の手稿は1697年のもので、
マントヴァ宮廷礼拝堂の楽長のナヴァラ作とあり、
他の手稿には『カティ夫人に献呈』とある。
おそらくマントヴァの知られざる人物であろう。
両作品とも、レグレンツィの作品16と
同様の編成のために書かれているが、
ヴァイオリンのパートが、
その頃、ヴィオラ・パートを得て新鮮になり、
合奏協奏曲のプロトタイプになった、
ローマのトリオ・ソナタに似て印象的な、
もっと新しい形式で書かれている。」

Track1.~Track4.
にハ長調のものが収められているが、
鮮やかに音楽を先導する、
ヴァイオリンの推進力が美しい。

第1楽章の冒頭はソステヌートと題され、
低音弦がぶんぶん言う中を、
ヴァイオリンが混沌をかき分けるような感じで、
アダージョになったり、ヴィヴァーチェになったり、
なかなか劇的なものになっている。

それを序奏のように、
アレグロが続くが、独奏と合奏の変化や、
独奏同士の掛け合いもあったりして、
楽しい進行である。

続くアダージョは、
多彩なコンティヌオの活躍の中、
ヴァイオリンは思慮深く歌い、
あたかも、ヴィオール・コンソートのように、
深々とした感触。

最後のアレグロでは、
舞曲調の大団円になっていて、
確かに、協奏曲の原型という感じがする。

ただし、全曲でわずか5分半しかない。

Track21.~24.には、
このナヴァラのイ短調のシンフォニアがあるが、
これも「ソステヌート」の導入曲があって、
この部分は、調性からしても、神妙な感じ。

アレグロ・アッサイは、
第1ヴァイオリン主動型ながら、
勢いもある中、各声部の交錯が目立ち、
曲に立体感を与えている。

アダージョで奏される43秒ほどの部分は、
扇情的なこぶしを聴かせ、
続く情熱的なダンスのアレグロへの、
効果的な移行となる。

このアレグロは、ふしも艶めかしく、
フラメンコを想起させる。

ナヴァラの曲に対しては、
以下のような解説もある。

「これは、1714年に、
コレルリの死後発表された、
合奏協奏曲作品6に似ているというより、
1680年代の
コレッリのローマの演奏会について、
ムファットが記載した、
増強されたトリオ・ソナタに近いと思われる。
アンティフォンの合唱によって培われた
音を強くしたり優しくしたりする効果の
イタリアの伝統は、
カスティーリャ風のエコー・ソナタと共に、
このジャンルの普及の肥沃な土壌となった。」

このように形式とか、編成の話があったが、
今度は、語源の話が続く。

「『コンチェルト』という言葉は、
イタリアで長い間使われて来たが、
(モンテヴェルディやガブリエリは、
彼らの作品の修正にこの言葉を充てた)
現代の意味で使われるようになったのは、
1690年代になってからであった。
トレッリの作品5(1692)にそれが使われ、
1696年のタリエッティの作品2が続き、
1698年のトレッリの作品6と、
グレゴリの作品2の協奏曲集が共に、
4部の弦楽を有する。
1700年に、
アルビノーニが作品2を出すまで、
その創生期には、
シンフォニア/ソナタ・タイプは、
出版時はしばしばコンチェルトとペアとなっており、
二つを分離することはあまりなかった。
ナヴァラのシンフォニアは、
トレッリの初期のコンチェルトや、
トリオ・ソナタの曲集である、
タリエッティの作品2と形式的には同じである。」

このように、シンフォニアやトリオ・ソナタや、
コンチェルトがごちゃ混ぜであった時代が展望されたが、
以下、まさしく、今と同様の意味での
協奏曲の発展が語られる。

「もっとも重要な発展は独奏パッセージの導入と、
さらなる弦楽奏者の追加が薦められる、
トレッリ、ヴァレンティーニらの作品によってもたらされ、
オーケストラのテクスチャーが形成された。」

確かに、これまで聴いた作品は、
各奏者ががちゃがちゃやっている感じで、
すっきりと、独特の技巧を見せる独奏者と、
バックで、それを支える合奏部、
という感じはなく、いわば、室内楽であった。

「グレゴリはその第4協奏曲のフィナーレでは、
独奏者である第1ヴァイオリンから
独立したトゥッティを含み、
おおきく前進したとはいえ、
独奏パッセージは、初期には珍しかった。
通して独奏パッセージを用いた最初の作曲家
(そして、協奏曲形式を採用した最初のヴェネチアの作曲家)
は、1700年に、5声のソナタ集と6声の協奏曲集を、
その作品2として出したトマゾ・アルビノーニであった。
(これも、出版パート譜の表紙には、シンフォニアとある。)
その事実上の独奏部の動きは、しかし、
ヴィヴァルディの初期の協奏曲と比べると地味なものである。
一番の見どころは第4協奏曲(作品2の8)にあって、
これには独奏チェロも登場し、
これはいくつかの初期のアルビノーニの協奏曲の特徴で、
1711年のセレナータ『アウローラ』の、
2つのゼッフィーロのアリアにも出てくる。
実際は、これはハープシコード・パートの
華々しい装飾にすぎず、
ヴェネチアではよく見られた習慣で、
アンサンブル・ソナタの古いスタイルの名残であり、
ハープシコード奏者は、
ラインを単純化して、時として、
(レグレンツィの作品16のように)
さらにオクターブ下を弾いた。
さらに、短く、しばしば和音だけの緩徐楽章は、
(第4協奏曲でのみ、実際に6声ある)
17世紀中盤のはじめにマリーニが、
そのシンフォニアで多用したものに似ている。」

これだけ書いただけあって、
興味が高まった、アルビノーニの、
作品2の8は、このCDにも収められている。

Track25.はアレグロで、
ちょこまかとヴァイオリンが囀りながら、
明るく楽しげな音楽が始まる。
じゃかじゃかと活発に鳴るチェロも豊かな感じ。
確かに、ヴァイオリンは技巧的であるが、
合奏部に対比的な価値があるようには感じられず、
ヴィヴァルディとナヴァラの間にいる感じがする。

Track26.はアダージョ、
じゃーん、じゃーん、ぽろぽろぽろ、
という典型的な経過句の連続みたいな音楽で、
1分しかない。

Track27.はアレグロ、
再び、ヴァイオリンが舞い上がるが、
それによって、他の楽器も興奮するので、
独奏楽器と合奏が分離している感じは、
今一つである。
この曲も、全体で5分半弱しかない。

ただ、このように、
3楽章でぴしっと決まっている点は、
多くの人が彼の功績と考えた。

「アルビノーニが、
急緩急の断固とした3楽章形式を採った重要さは、
彼が古い4楽章形式を協奏曲で捨てた、
最初の提唱者であるという以上の評価はできるものではない。
1690年以前からヴェニスで人気があった、
3楽章のトリオ・ソナタを知っている人には簡単なことだった。
彼は、ナポリのチャペル・ロイヤルに移って、
アレッサンドロ・スカルラッティに影響を与えたような、
ピエトアンドレア・ツィアーニの、
オペラ用の3楽章のシンフォニアも、おそらく、知っていた。」

読んで見ると、チャンドラーは、
まったくアルビノーニを評価していないようである。

「形式は進化したが、アルビノーニの作品は、
バロック期の協奏曲に必要な名技性が欠けている」
と追い打ちをかけて手厳しい。

「この要素を最初に導入した作曲家は、
フィレンツェの人で、
多くのキャリアをローマで積んだ、
ジュゼッペ・ヴァレンティーニである。
彼の協奏曲作品7(1710)は、
ボローニャで出版されたもので、
2つのヴァイオリンのもの、
2つのヴァイオリンとチェロのもの、
ヴァイオリンとチェロ、
ヴァイオリンのもの、
そして、11番目の協奏曲では、
4つのヴァイオリンのものという、
華やかなスコアで、
レグレンツィの作品8を先取りしている。
後者は、彼の風変りな和声の偏愛を示し、
特に量感のあるフーガの第2楽章に見られる、
すべての声部が均等に主張するものである。
これまでの協奏曲の平板な外観に対し、
この曲集の登場はまさしく興奮を与えた。」

後者とあるが、これは、レグレンツィではなく、
ヴァレンティーニの事を説明しているようで、
このCDには、Track28.~Track33.
の6トラックかけて、
ヴァレンティーニの作品7の11が収められ、
第2楽章のTrack29.は、
これだけで5分半もあって、
ナヴァラやアルビノーニの1曲分の長さがあり、
マッシブである。
しかも、ちょこまかと動き、
まさしく生彩を放つフーガになっている。

このような楽章を持ち、
なおかつ楽章数が6つもあるので、
17分半の演奏時間を要する。
この点から見ても、桁違いの作品のように見える。

確かに、BGMのように、
このCDを聴いていても、
この作品になると、目が覚めたように生彩を放つのが分かる。
Track28.は厳かな序奏風。
Track29.は変化に富んだ、超絶のフーガ。
Track30.グラーヴェとアレグロで、
レチタティーボ風の嘆きが、
ヴァイオリンの急速パッセージを伴う、
パガニーニ風の技巧誇示部に移行する。
複数の楽器による掛け合いもスリリングである。

Track31.はプレストで、
一番短い2分たらずの部分。
そのくせ、押しの強い主張が一筋縄ではいかず、
頑固な感じが、作曲家の姿を連想させる。

Track32.アダージョが来るが、
これは確かに奇妙な自己懐疑のような音楽で、
作曲家は変なにいちゃんだかおっさんだったに違いない。

Track33.
終楽章でアレグロ・アッサイ。
ここでも、執拗なリズムが脅迫観念のように響き、
悪夢のようにヴァイオリンが交錯する。

1681年生まれとあるが、ヴィヴァルディより若い。
ヴァレンティーニは、どうやら無視できない作曲家のようだ。
1710年に出版した曲であれば、29歳の作品。

「これらの協奏曲の多楽章のレイアウトを見ても、
北イタリアでは嫌われた、
一つのヴァイオリン・ラインなど、
ヴァレンティーニの
ローマ風コンチェルト・グロッソとの親近性を感じる。
しかも、第6協奏曲には、
ヴェネチア的な要素もあって、
アルビノーニの3楽章形式を取り、
さらに作品2の8の主題の盗用もある。」

以上のように、ヴィヴァルディ出現前の、
協奏曲の歴史を概観した形だが、
実は、このCD、かなり意外な選曲を行っており、
協奏曲やその原型の器楽曲のみならず、
声楽曲が含まれて、
マイリ・ローソンというソプラノが歌って、
彩りを豊かにしている。

それにしても、作曲者が、
「コンポーザーX」というのは、
いかなる理由によるものか。

「アントニオ・ヴィヴァルディは、
おそらく、この華麗な作品集を熟知しており、
翌年、彼の最初の協奏曲集『調和の幻想』(1711)
を出版する。
1690年代の彼の音楽の修行は、
司祭になる勉強と一緒になされたが、
同時に音楽界が大きな変化を起こしており、
その頃、19曲の宗教曲を勉強に使った。
これらはトリノの国立図書館に収蔵されている。
これらの作品集は5つのグループに分けられ、
最大の13曲を占めるものは、
すべて作者不明の自筆譜で、
同じ筆跡で書かれている。
これは、1650年頃生まれた、
ヴェネチアの作曲家、
『コンポーザーX』のものと認定されている。
多くのものは、4声か5声の声楽部を有し、
時折、コルネットやトランペットが付加される
5声のヴェネチア式の弦楽合奏部を有する。
5曲の詩篇への付曲は、しかし、
ソプラノとい弦楽のためのもので、
ヴィヴァルディのトレードマークの一つとなる、
華やかな協奏曲スタイルに導く厳かな序奏も、
同じテキストに後年、ヴィヴァルディが付曲するものの
青写真のような感じである。
音楽は全体として懐古的なもので、
ある個所では、
モンテヴェルディの残照が感じられる。」

この中の「ラウダーテ・プエリ・ドミヌム」
(詩篇第113番「主のしもべたちよ、ほめたたえよ」)は、
CDの2曲目に早くも取り上げられ、
Track5.では、前述のような、
啓示的にも聞こえる、
器楽による控えめな序奏がある。
シンフォニアと題されている。

Track6.はソプラノが入って来て、
アレグロで「ラウダーテ・プエリ」が歌い出される。
声は、協奏曲のソロのように浮かび上がって美しい。
通奏低音の動きや、ヴァイオリンの助奏も美しい。

Track7.では、
「シット・ノーメン・ドミニ」が、
やはりアレグロで歌われるが、
「主の御名はほむべきかな、
今より、とこしえに至るまで」という内容ゆえか、
いかにも神妙な感じ。

Track8.は、
「日の出ずるところより、日の入るとこまで、
主の御名はほめたたえられる」という内容で、
リズムがアジテーション風に強い。

Track9.は、
アダージョからアレグロに変化するのが
「主はもろもろの国民の上に高くいらせられ、
その栄光は天よりも高い。」
という内容なので、恐れ多くかしこまった感じだが、
声の装飾が多く、古風な感じがする。
やがて、器楽合奏がリズム感に乗って高まる。

Track10.は、
「われらの神、主にくらぶべき者は誰か、
主は高きところに座し、
遠く天と地とを見おろされる。 」
というアレグロで、
ヘンデルのオラトリオのような、
すっきりとした音楽になっている。

Track11.は、ようやく、
この詩篇の特徴的な歌詞になるが、
「主は貧しい者を塵からあげて
乏しい者を糞土からあげて」という内容ゆえに、
前半は貧しくて震えるようなプレストと、
塵にまみれたようなアダージョの悲痛に続き、
後半の上がっていくように、
さーっと光が射しこむような
喜ばしいアレグロとの対比が劇的である。

Track12.は、
「もろもろの民の君たちとともに座らせられる」。
ここではアレグロで速いテンポで、
神様のありがたさが宣言されるが、
声の揺らし方がオペラティックでもある。

Track13.の「グローリア」は、
意外にも、切実な感じさえするモノローグで、
「父と子と聖霊に御栄えあれ」と歌われる。
Track14.は決まり文句の
「はじめにあったごとく、
今も、いつも、 世々に限りなく」であるが、
ここも、妙に改まった音楽で、
歓喜の爆発などではなく、
優等生的な説教調な曲調。
器楽が入って来て明るさが増してほっとする。
やがて、「アーメン」の部分に入っていくが、
ここでも、粛々と歌われるような感じ。

この曲の各部で、声楽と器楽合奏、
あるいは独奏との交錯が見られたが、
ヴィヴァルディが、こうした楽曲を教科書にしていた、
というのも面白い。

このように声楽曲が入った事で、
協奏曲形式確立前の、
いくぶん性格に乏しい器楽曲の曲集に、
変化を与えて、このCDの価値を高めている。

このCDの解説の最後は、
いかに、ヴィヴァルディが優れた作品を書き、
協奏曲の形式を完成させて行ったかが熱く語られている。
このCDでも、最後に現れるヴィヴァルディの協奏曲は、
異才、ヴァレンティーニの後でも、
扉が開かれたかのような新鮮さで響いた。

まだまだ解説は続くが、紙面も尽きたので、
以上の点をまとめると、このCDの内容は以下のようになる。

Track1.~Track4.
フランチェスコ・ナヴァラのシンフォニア、
ヴァイオリン声部がヴィオラの参加で刷新され、
合奏協奏曲のプロトタイプになった例。

Track5.~Track14.
作曲家Xの「ラウダーテ・ペウリ」、
ヴィヴァルディが若い頃勉強に使った教科書のような曲。
協奏曲のような序奏や主部がある。

Track15.~Track20.
レグレンツィの「3つのバレットとコレンテ」、
ヴェネチアの器楽の基準が、
管楽から弦5部となっていった例。
基本的に舞曲の集合体。

Track21.~24.
ナヴァラの「シンフォニア」イ短調、
同上、知られざる夫人に献呈されたもの。

Track25.~27.
トマゾ・アルビノーニの協奏曲、作品2の8、
3楽章形式の協奏曲の確立。
独奏パッセージが見られ、チェロも活発に動く。
ただし、まだ名技性がない。

Track28.~33.
ヴァレンティーニの協奏曲、作品7の11、
独奏声部に名技性が入り、
協奏曲に魂が入った例。

Track34.~36.
ヴィヴァルディの作品3の3、
Track37.~39.
ヴィヴァルディの作品3の10、
これらは、今回、十分鑑賞できなかったが、
有名な作品ゆえ、またの機会もあるだろう。

得られた事:「ヴェネチアには管楽合奏の伝統があったが、ヴァイオリンの普及に伴う技法の開発によって、器楽の主流は弦楽合奏となり、ヴァイオリンならではの超絶技巧とオーケストラの質感の対比が追及され、ヴィヴァルディの登場となった。」
「3楽章形式はアルビノーニが徹底し、異才ヴァレンティーニがヴィルトゥオージイを持ち込んだ。」
by franz310 | 2015-01-18 15:08 | 古典
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