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クラシック音楽への愛と悲しみの日々
by franz310
ICELANDia
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名曲・名盤との邂逅:1.シューベルトの五重奏曲「ます」その312
個人的経験:
このCDの表紙デザインは、
極めてヤバい感じのもので、
一般のクラシック音楽ファンの、
リスニングルームには、
あまり調和しないものであろう。
おそらく、これを店頭で見つけ、
なんじゃこりゃ、と思った顧客も、
さぞかし多いものと推測する。
この歌手や内容を知らなければ、
私も手を伸ばすことはなかっただろう。


スキンヘッドに中折れハットをかぶり、
丸首の網編みチョッキで、肩には猿を乗せている。
よく見ると、手にも黒いすけすけの手袋をして、
赤いイチゴやバラを捧げている。
背景にはゴージャスな金色カーテンがかかっていて、
どう考えても怪しいでしょ。

赤い、おどろおどろしい字体で、歌手の名前、
そして、「カンタータ」という文字が大きく書かれてある。
そうは言っても、名門、カプリッチョ・レーベルのもの。

前回、ピアノソナタで有名な、
ドメニコ・スカルラッティの声楽作品カンタータを聴いて、
このピアノの名手が、
何故、ピアノ伴奏のものを書いていないかと
いぶかったりもしたのだが、
何と、前と同じカウンターテナー、
M・E・チェンチッチ(ツェンチッチ)が、
そうしたものを録音していた。
それが、このCDなのである。

ここでは、スカルラッティのカンタータが5曲と、
ピアノソナタが2曲、収録されていて、
当時のピアノの繊細な味わいも、
しっとり味わうことが出来る。

前回のCDによって、
男性でありながら、高い声を出すカウンターテナーなのに、
極めて自然な発声で歌う、チェンチッチには感心していた。
従って、このような奇矯な画像であろうとも許そう。
聴きたいから、許すしかない。
買うのも、家に置いておくのも恥ずかしいが。

ところで、このCDには、
おまけDVDが付いているが、
これを見ると、
早くからボーイ・ソプラノとして名を馳せた、
チェンチッチの悩ましい精神状況、
そして、スカルラッティとの出会いについてがよく分かる。

スカルラッティは悩める若者を救ったようで、
それゆえに、このように、
続けざまに、これら無名の作品が収録されたのであろう。

ピアノ曲でしか知られることのない、
スカルラッティの声楽作品を、
こうして紹介する仕事は、
あるいは、この歌手の業績として、
讃えられるものなのだろうか。

有名なピアノソナタと同時期の作品群で、
しかも、同じような楽想が、
ふと現れるのも面白い。

前回のものも、有名なカストラート歌手の、
ファリネッリのために、
スカルラッティが書いたものとされたが、
今回のものも同様である。
ファリネッリのために書いた作品ということでも、
音楽史的な興味も湧く内容であろう。

解説は、前回、もう少し大きな編成で、
チェンチッチを伴奏する指揮をしていた、
カースティン・エリック・オセが担当。
従って、前のものと重複する説明がある。
その部分は割愛して見てみよう。

「ファリネッリとメタスタージオが、
若い優美な女性、おそらく、ファリネッリの歌の弟子、
テレサ・カステリーニの仲良く集ったのを描いた、
イタリアの画家、Jacopo Amigoniの油彩がある。
この3人が、スカルラッティの
後期のカンタータに関係する3人だと考えられる。
男性の主人公が出て来るものは
ファリネッリ自身が歌い、女性が必要な時には、
カステリーニが参加し、
スカルラッティ本人が受け持ったのではなければ、
鍵盤楽器の伴奏は、
マリア・バルバラ妃が演奏したかもしれない。
『クラヴィチェンバロ』または、ハープシコードは、
18世紀の終わりまで、もっと大きな編成の作品の
伴奏楽器として最もポピュラー鍵盤楽器であったが、
スペインの宮殿では、それ以外の編成でも、
クラヴィーアが使われた。
スカルラッティは、
バルトロメオ・クリストフォーリや、
ジョヴァンニ・フェリーニの工房によって、
すでに十分開発されていた、
フォルテピアノを技術的に評価しており、
マリア・バルバラ妃のために、
これらを取り寄せていた。
非常に近代的で繊細な楽器の、
比較的柔らかく、強弱の幅がある音は、
極めて親密な室内楽に向いており、
とりわけ声の伴奏に向いていた。
これに霊感をうけ、この録音では、
フェリーニのレプリカのフォルテピアノを使って、
この録音の演奏者たちは、
興味深い音響の実験を行っている。」

ということで、このCDで繰り広げられる演奏は、
このCDの表紙背景にあるような、
ゴージャスな織物に包まれた宮廷における、
豪華なメンバーによる演奏を妄想しなければならない。

「それゆえに、クラヴィーアの専門家である、
アリーヌ・ジルベライヒャは、
これらのカンタータの通奏低音パートを、
想像力豊かに練り上げたが、
この楽器の響きの多彩さを生かすために、
ほとんど助奏のようにも演奏している。
独奏楽器としての能力を披露するべく、
彼女は3曲のスカルラッティのソナタも収録した。
これらの作品は、
カンタータの中での出来事を補足することになった。
単純なアンダンテの低音上の、
その歌に満ちたアリオーソと、
幅広く、しかし、常にメロディアスな装飾によって、
ソナタK277は、様式的にC・P・E・バッハの、
ギャラントなピアノ作品に似ている。
叙情的な質感に加え、
ソナタK215は、この楽器に、
ドラマや打楽器的なリズムを要求し、
最初の快活なムードは、真ん中の部分で、
暗く脅迫的になり、
ここではぶっきらぼうに和音が積み上げられる。」

ちなみに、このCDには、
もう1曲、K77のソナタも収録されているが、
特に解説はない。
これらのソナタは、
特に有名曲が選ばれているわけではない。
以下、カンタータの話になる。

「これらのテキストは作曲家に、
魅惑的なチャレンジを求め、
レチタティーボとアリアという、
お決まりのシーケンスは、
表面的には慣習的なオペラセリアに倣っているが、
愛の喜びと苦悩の乱された魂の矛盾した状態を描く。
憧れと怒り、希望と失望といった矛盾した感情は、
しばしばそのまま並記され、
主観の程度ごとに感情の性格を忠実に反映し、
古くさい類型的な性格描写をあえて打ち破っている。
スカルラッティの曲付けは、
同様に、そうした先を目指している。
彼の声楽パートの扱いは、
一見、盛期バロックのカストラートや、
プリマドンナによって典型的な、
超絶技巧なしで済ませているが、
様々な感情の微妙な表現や荘厳さに集中している。
すでに盛りをすぎていた、
声の敏捷さの限界を考慮して、
声のパートは書かれているが、
ファリネッリは当時、40歳を越して、
歌手としてのキャリアの最高期からだいぶ経っていた。
しかし、声のアクロバットが欠如していることで、
妥協と考えるのは、
正しくスカルラッティを評価したことにはなるまい。
この制約がむしろ作曲家の熟達を示すことは明らかである。
単純に見える声楽パートが意味するものは、
18世紀中葉に声高に言われた『自然さ』の追求で、
それゆえ、スカルラッティの作品は革新的ですらある。
広範な質感やオリジナルのテクストの心理的解釈に、
集中している。」

ざっと見て見て、前回のCDと変わった事はないが、
今回は、さらに詳細に、曲ごとの説明がある。

「カンタータ『どんな気持ちで』の最初のアリアは、
小唄のような、飾らないものだが、
声楽部の跳躍や通奏低音の和声変化が、
表現に集中力を与えている。」

Track1.はアリアで、
「どんな気持ちで私に平安について聴くの。
言ってみて、恩知らずの心、裏切り者。
きっとあなたは、私があなたの裏切りを、
忘れたとでも考えているのでしょう。
そしてあなたが悪者でペテン師であることを、
知らないとでも。」
などと歌われるものだが、
非常に軽妙に口ずさめるようなもので、
最初は、チェロとテオルボだかの音が、
ぶんぶん軽快に応答しているが、
途中から、ぱらぱらとフェリーニのピアノの間奏曲が始まる。

この瞬間は、非常に美しい。
そして、魅惑的な音色で、声と絡まっていく。

チェロは、マヤ・アムラインである。
チェンチッチの声は、一聴して、女性のようでもあり、
男性のようでもありながら、まるで不自然さがない。
愛情を込めて歌っている。

解説にあるように、
スカルラッティの書法もまた、
要所を押さえて、自然さを重視しているのであろう。

Track2.はレチタティーボで、
いつものように、恋人をなじるような内容。
ここでは、テオルボのぱらぱら音が美しい。
これを弾いているのは、日本の誇るリュート奏者、
今村泰典である。
レチタティーボとしてかたづけるのは惜しい、
魅惑的なメロディの部分。

「次のレチタティーボは、
一般的には、テクストを分割して、
大規模な終止を省き、緊張を維持させ、
断固たる劇的な、切迫感ある
対話の印象を引き出している。」

ここで、解説者が言いたいのは、
「切迫感はないが、
切迫感のある会話として不自然でなくしている」
ということであろうか。

「この録音における多くのレチタティーボは、
形式は原則に従っているが、
古い盛期バロックのパルランド様式を壊し、
スカルラッティの音の語法に劣らず、
豊饒な和声が表現力を持っている。」

確かに、どの曲のレチタティーボも、
まくし立て系が少ないので、
非常に聞きやすい。

Track3.はアリア。
「あなたは金物細工師のように、
ため息を鍛造し、嘘を織り上げる。」
とちゃかすような歌である。
ここでも、チェロで低音を増強されたピアノの、
闊達な表現が、チェンチッチの声にブレンドする。
最後に、長い声のひきのばしがあって、
なだらかな声楽にリズミックなピアノの調和が楽しめる。

「終結部のアリアでは、
独唱部で、音符の繰り返しが多く、
アルペッジオの3和音、
小さな、断片的な音型が、
片思いの女性が愛する人と比べている、
金属細工師のハンマーを表している。」

比べるというか、比喩としている、
という事だと思う。

Track4.ソナタK277。
この優しい音色ながら、
一筋縄ではいかない感情のソナタが始まる時の、
音色にも、ついつい引き込まれる。
確かに、エマヌエル・バッハみたいな感じである。

次に、いきなり嘆くような歌で始まる、
カンタータ、「フィレ、もう私は語らない」が来る。
もう、この曲なども、チェンチッチの声は、
なめらかで女性的ながら男性の声。

単に、歴史上の存在として興味もなかった、
カストラートの美学がここにあるのは、
よく実感できる。

この曲ではギターやテオルボは出ないようだが、
ピアノの音が、ほとんど、それと同様な、
繊細な音色を奏でている。

Track5.レチタティーボで、
「もう、あなたを不実だ、残酷だなどと言わない。
何故なら、あなたは殺人者」という、
強烈な内容のもの。
しかし、先に解説にあった様式で、
ここでのレチタティーボは、
あくまでも感情を押し殺したような表現。
かえって、リアリティがある。

Track6.アリア。
「あなたが愛の喜びの希望を失ってしまう時、
私を棄てた事を後悔するでしょう。」

切々たるアリアであるが、
アクロバットはない。
天空に消えていくような歌声に、
ただ聞き惚れるような音楽である。

解説にはこうある。
「カンタータ『フィレ、もう私は語らない』の、
2つのアリアは、明解なスタイルの違いがある。
最初のアリアは、優雅な装飾を用いた、
ゆっくりと訴えるようなもので、
メロドラマ的に半音上げた休止を利用し、
ファリネッリの声楽の先生であった、
ニコラ・ポルポーラ(1686-1768)の、
ある種のイタリア・オペラの情景を思わせる、
リズム的には単純な伴奏の上に、長いメロディの弧、
磨き上げられたコロラトゥーラのパッセージがある。」

ここに列挙された美辞麗句のように、
とても癒される美しい音楽である。

Track7.レチタティーボで、
いくぶん、せき立てるような感じ。

さっきまでの「殺人者」扱いから、
えらく矛盾した内容の歌である。

「何が!神よ、あなたから離れているのに、
私の誠実な心はあなたを感じる。」

Track8.ものすごいリズムのアリア。
スカルラッティのソナタそのもののように、
強烈に存在感のあるファンダンゴ風のピアノである。

「私の心だけがあなたを覚えている。
ああ、愛しい人。辛く当たらないで。
でも誰に、誰に言ったの。
あなたの心に似たものが、わたしのものと、
あなたは、いつか言っていた。」

解説にもこうある。
「第2のアリアは、外面的で騒々しく、
やぶれかぶれのものである。
速い三拍子は、ほとんど民族舞踊のようで、
声楽部の大きな跳躍、衝動、責めるような絶叫は、
音楽の残りの部分の語りの休止から切り離されている。
ほとんど、芸術の規則を無視し、
さまざまな表現の自発性と格闘している。」

Track9.ソナタK215。
このソナタは聴いた事がある。
優しく語りかけるような始まり、
そこから、すこしためらいがちな表情を見せ、
しだいに逡巡して、感情が高ぶってくる、
いや、くすぶって来るような音楽。

なるほど、先ほどのカンタータもそんな感じであった。
あるいは、このCDの製作者は、
こうしたソナタの背後にあるドラマを、
こうした形で暗示したかったのだろうか。

この曲でも、この楽器特有の音色が、
最大限にアピールされている。

次は、カンタータ、「どんな感情、どんな燃える願望を」。
これはまくしたてるようなレチタティーボで始まる。
伴奏の編成は、フォルテピアノとチェロ。

Track10.レチタティーボ。
「不実な人よ。あなたは私をまだ、
あなたの無慈悲さを忘れるほど、
弱いと思っているのですか。」

Track11.激烈なパッセージを含むアリアである。
が、最初はそんな事はおくびにも出さず、
瞑想的なチェロとピアノの序奏がただ美しい。

「私の胸にいつも避難所を提供した、
甘い『イエス』の言葉に、
あなたが昔のように楽しむことを知っています。
ああ、不実な残酷な男。言って、違うの。
いま、言いましょう。
もし、あなたの血にまむしの毒を入れ、
あなたが最後の息をしたならば、
その時、『イエス』と言いましょう。」

恐ろしい復讐の歌である。
したがって、中間部からの絶叫はすさまじい。
まくしたて、小休止、まくしたて、声を張り上げる。
まさしく表現主義の世界、
さらに、華麗なコロラトゥーラがあり、
再び、最初の瞑想が来る。

このCDのアリアの中で、最も変化に富むものかもしれない。

解説にはこうある。
「『どんな感情、どんな燃えるような願望』の、
最初のアリアは、内面の混乱に引き裂かれ、
興奮したもの。
スカルラッティの音楽は、
念入りに、元のテクストにある、
矛盾した感情を追っている。
最初のゆっくりしたテンポは、
『不実な』という言葉で、突然、
狂ったようにコロラトゥーラのパッセージを見せ、
オペラの劇性を示唆する。
また、『言って』という言葉を発端に、
異なる色調が施される。
スカルラッティはためらいなく、
このアリアで感情表現の自然さを求め、
『感情の統一』という古いルールを打破し、
大胆に当時の人を驚嘆させたに違いない。」

Track12.レチタティーボで、
優しいピアノのアルペッジョの伴奏が美しく、
そこに、チェロが黒々と陰影をつける。

「でも、私は間違って導かれた。私が訴えた人に?
きっと、不幸な恋人なら私の言葉を聞くでしょう。
すでに後悔した人?」

私は、こうした不実な恋人を訴える歌を歌う、
チェンチッチの声が、女性の声に聞こえて来た。

Track13.高い音域から低い音域に跳躍する、
いかにもバロック・オペラの世界のアリアである。
あるいはナポリ派風という奴だろうか。

焦燥感を募らせて、
じゃんじゃんとかき鳴らされるピアノが、
フラメンコのようだ。

「私から離れて下さい。
あなたの安らぐ場所は獣の中へ。
慈悲を求める嘆願を聴かせて。」

解説にはこうある。
「締めのアリアでは、
8分音符の声楽パッセージの切迫して動き回る感情が
バスのラインと『調和して』、
最初のアリア同様の怒りや暗さ、
恋人の残酷さを表す、脅すような様相を与える。」


Track14.はソナタK77。
これまた、ほの暗い感情に翻弄される音楽。
静かな中に、黒々とした感情が垣間見える。

次は、カンタータ「いいえ、逃げられません、ニーチェよ」。

Track15.はレチタティーボ。
ここは、テオルボだけの伴奏。

Track16.のアリアで、
深々とチェロが入って来るのが美しい。
「美しい人、あなただけに、私は乞うのです。
言って下さい。私が嫌いではないと。」

このアリアはしかし、
それほど変化に富んだものではなく、
美しいチェロと声の線に、
たっぷりと浸ることが出来る。

Track17.レチタティーボで、
「でも、神様、誰が知っているでしょう。
あなたに対する情熱をいかに抑えようとも、
あなたには、小さな事に見えるでしょう。」

ここでのレチタティーボも、
シンプルなもの。
次のアリアの激しさが際だつ。

Track18.テオルボはギターに持ち替えられ、
激しく弦がかき鳴らされ、切迫感のあるアリアとなる。
「あなたが望むように愛せばよく、
ため息だけで語り合えばよい。」

解説には、こうある。
「『いいえ、逃げられません、ニーチェよ』
の第2のアリアは、
同様の質感がある。」

確かに、先ほどの民族舞踊調の高鳴りである。

「支離滅裂な短いフレーズと、
狭い音域のメロディ、
切迫した三拍子でスペイン風に彩色されている。
ここで、バスに動機が出た時、
潜在的なドラマが生まれる。」

間奏や歌の合間に、低音部で動機がちらつき、
宿命的なものを感じさせる。
その中から、ピアノの音色が浮かび上がる、
不思議な効果も絶妙である。

「チェロのカンティレーナを伴う、
表現力豊かな不協和音と、
『哀れみ』という言葉で、
主人公の恩寵を求める足掻きを描くべく、
大規模なコロラトゥーラパッセージを伴う、
優しいなだめるような
最初のアリアとコントラストをなす。」

器楽奏者たちの息の合った競演ぶりもめざましく、
音楽する時間の密度をどんどん高めている。

最後のカンタータ
「覚えておいで、美しいイレーネよ」は、
DVDでも、テーマ音楽として使われている、
印象的なチェロのメロディで始まる。
これは、最初のカンタータ同様、
アリアの間にレチタティーボが挟まった形。

Track19.は、従ってアリア。
「君の冗談に、いかに苦しみ、痛みを感じたか。」

切々と歌われるアリアで、
内容はともかく、ヒーリング効果もありそうだ。
ここでは、器楽部にピアノが参加しないので、
いくぶん、古雅な印象が出ている。

「カンタータ『美しいイレーネよ』は、
同様に抑制された雰囲気で始まる。
ゆっくりと揺れる付点リズムが、
最初のアリアにセレナーデ風の性格を与えており、
あがめているイレーネをなだめるかのようだ。」

Track20.レチタティーボで、
打ち付けてはバラバラになるような器楽部が効果的だ。
「君の遊び、君のため息には平静ではいられない。」

「しかし、この平穏さは見せかけで、
次のレチタティーボでは、
怒りと失望に変わる」と解説にあるとおり。

Track21.は、リズミックではあるが、
苛立ちを隠せないアリア。
「なぜ、ひとときも、
君の甘い声を聴かずにいられないのか。」

解説は、このように締めくくられる。
「最後のアリアでは、歌手は、彼の疑問を、
要求というより、不安を持って恋人に伝える。
聴衆は、彼の心からの懇願が聞き入れられたかどうか、
疑惑をもったまま、苦悩の中に置き去りにされる。」

ここでの器楽は、ピアノ、チェロ、テオルボ。
なだらかな声のラインに対し、
自在に弾奏する背景の色彩も味わい深い。

このように、今回、聴いたスカルラッティのカンタータ集も、
チェンチッチの自然な発声と、
自発的に絡み合う3人の器楽奏者の、
変幻自在な魅惑的な調和によって、
極めて聴き応えのある内容になっていた。

さて、このCDは、DVDも特典で付いていて、
前半は、チェンチッチの生い立ちや、
(名前は、ツェンチッチと発音されている)
現在に至るまでの活動の変遷などが、
貴重な映像と共に語られている。

第一印象としては、このCDの表紙写真とは、
まったく違う真面目に悩む青年の印象だ。

幼い頃から高音に対する特別な愛着を持ち、
ウィーン少年合唱団での活動で、
特に、日本で人気を博したことが、
彼のデビューにつながったということは、
少し、我々、日本の聴衆には嬉しい逸話であった。

が、彼は過度な期待と自身のアイデンティティの問題から、
日本ツアーから逃げ出したと言うから、
何か、嫌な思い出になってなければ良いが。
練習風景なども、真剣そのもので、共感を呼ぶ。
あと、CDもいっぱい持っていて、私は仲間意識を持った。

後半は、CDでも収録されたカンタータの演奏風景で、
1曲まるまると1曲の一部が収められているのが嬉しい。

収録されているカンタータの一曲目は、
CDのTrack10に相当する、
「どんな感情、どんな燃える願望を」全曲である。

どこかの宮廷の一室のような場所で、
歌手と器楽奏者たちが演奏しているが、
チェンチッチは、歩き回ったりしているのに、
音の定位は問題ないので、
おそらくは口パクであろう。

器楽を演奏している美男美女たち、
この方々は、CDの人と同じなのだろうか。
ただ、日本のファンが気になる今村泰典のパートは、
何故か、外国人男性がやっている。
どういう事だ?

この曲は2曲目がバロックギターで、
4曲目がテオルボだということだが、
DVDでは、テオルボしか映っていない。

ピアノとチェロは若い美人が弾いていて、
これが、このCDにおける、
二人の演奏者に相当するのか、ネットで画像検索したら、
かなり違うことが判明。

解説のどこを見ても何も書いていないのである。

室内の調度をもっと写せ、
器楽奏者をもっと写せと言いたくなる程、
室内には大胆な壁紙が描かれ、奏者は見目麗しいのだが。

二曲目はCD収録最後のカンタータ、
「覚えておいで、美しいイレーネよ」の第1曲である。
ここでは、男性のテオルボ奏者と、
女性チェロ奏者が向かい合って座って演奏。
遠くからチェンチッチが登場して歌い出す。
CDとは編成が異なるので、
演奏も違うということか。

しかし、この王宮の室内の装飾類に囲まれて、
何と、美しい音楽のひとときであろうか。

得られた事:「ピアノフォルテを伴奏にカンタータを書くのは、スカルラッティにとっては自然な成り行きであった。」
by franz310 | 2012-01-21 21:41 | 古典 | Trackback | Comments(0)
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