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クラシック音楽への愛と悲しみの日々(一枚のLP、CDから「書き尽くす」がコンセプト)
by franz310
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名曲・名盤との邂逅:1.シューベルトの五重奏曲「ます」その205

名曲・名盤との邂逅:1.シューベルトの五重奏曲「ます」その205_b0083728_12261065.jpg個人的経験:
前回、アリャビエフの
ピアノ三重奏曲を聴いて、
シューベルトより10歳年長で、
いわば辺境の作曲家が、
古典の枠組を越えた作風を
示していた事実に、
いくぶんの驚きを感じたが、
名門ベートーヴェン四重奏団で、
この作曲家の作品は、
他にも弦楽四重奏曲が聴ける。


この四重奏団、ショスタコーヴィチの演奏で有名で、
昭和51年の最新レコード名鑑でも、
ショスタコーヴィチの最後の弦楽四重奏曲を聴くには、
この団体の演奏しかないことが記されている。

大木正興氏の解説によると、
「この四重奏団は一九六〇年代の半ばに
楽員の交代をやむなくされ、
一部が若く、一部が前時代的なスタイルの
老人ということになって
様式的にまとまりにくくなったようだ」
などと厳しい指摘がされている。

今回のアリャビエフについて言えば、
戦後すぐのモノラル録音なので、
創設期の老人メンバーの若い頃で占められており、
そうした問題はないだろう。

とはいえ、1948年という、
恐ろしい時代のレコーディングに、
ふと、思いを馳せてしまった。

これらの作品も、一聴して聴き応えがあるが、
この恐るべきスターリンの時代に発掘された作品に、
本当に信憑性があるのだろうか、
などという疑念がわくではないか。

これは、勝手にそう思っただけで、
このテーマ追求が今回の目的ではない。

何と、1825年の作品とされる、
ト長調の四重奏曲の第3楽章は、
何と、「ナイチンゲールを元にしたアダージョ」となっていて、
ガリ=クルチや、シュトライヒの歌で知られる、
ロシアの名歌曲のメロディーがあからさまに歌われる。

これはびっくり、あまりにも出来すぎな話であるが、
アリャビエフの作品という保証書付き、
という感じで、問答無用である。

ここで少し脱線すると、
この「夜鶯(ナイチンゲール)」は、
名ソプラノ、リタ・シュトライヒの回想では、
彼女の人生において、
かなり重要な1曲として、
紹介されているのを読んだので書き留めておきたい。

この20世紀前半に世界中から愛された歌姫は、
声がきれいだと言うことで、
女学校時代から、クラスメートには有名で、
たびたび、この曲を歌わされた、
と回想しているのである。

雨の日、昼休み、校庭で遊べない時には、
クラスメートに歌をせがまれて、
昼食を食べ逃した、などという少女時代の話のあと、
シュトライヒはこう結んでいる。

「後になって大ホールで歌うようになってからも
聴衆はこの歌をいつも希望しましたが、
このリクエストは女学校時代からなされていたわけです。」

さて、こんな佳曲を書いた、
アリャビエフの話に戻るが、
先の四重奏曲が書かれた、
1825年といえば、シューベルトが、
やはり、自作の歌曲を主題にした、
「死と乙女」を書いた翌年であり、
アリャビエフの四重奏曲と同じト長調の作品は、
シューベルトにおいては翌年に現れるという時点に相当する。

この時代にロシアに、
こうした作品が生まれていたのであろうか。
という疑念が改めて浮かんでくる。

とはいえ、それより20年前に書かれた、
ベートーヴェンの「ラズモフスキー四重奏曲」は、
ロシアの俗謡に寄っているし、
それを遡ることまたも25年前のハイドンの四重奏曲は、
ロシアの大公夫妻を喜ばせようと作られたゆえに、
「ロシア四重奏曲」(作品33)と呼ばれている。

我々は、グリンカを持ってロシア音楽の創始者と考えたがるが、
アリャビエフとなると、それより一世代古い世代となる。

名曲・名盤との邂逅:1.シューベルトの五重奏曲「ます」その205_b0083728_1227087.jpg今回のCDには、
この「ト長調」第3番の前に、
1815年の作とされる、
第1番「変ホ短調」というのも入っている。
Bohemeというレーベルの、
ロシア・クラシカル・コレクション
というシリーズのもので、
ここでのアリャビエフの肖像は、
「ちょび髭の夢見がちなおっさん」、
という風情で「先駆者」の感じはない。


この線画を描いたのは誰か分からないが、
Design Vladimir Pasichnikとある。

Text Konstantin Zenkin、Mikhail Tsyganov
とあるのは、解説者であろうか。
ロシア語いっぱいのCDではあるが、
幸いな事に、比較的丁寧な英文解説もある。
そこには、こんな事が書いてある。

「19世紀初頭の高名なロシアの作曲家、
アレクサンダー・アレクサンドロヴィッチ・アリャビエフ
(1787-1851)の名は、
ロマン派時代の素晴らしい、
ロシア都会派ロマンスの好例である、
ロマンス『ナイチンゲール』によって、
多くの音楽愛好家に知られている。」

何だか変な文である。
「良く知られている人は、
これで知られている」というロジックは、
メビウスの輪みたいである。

「アリャビエフによる、
ロマンスや歌曲、ピアノ舞曲の小品は、
生前から出版され、よく知られていた。
アリャビエフは、シェイクスピアのロマンティックな劇、
『嵐』に基づくものを初め、6曲のオペラ、
バレエや劇場上演用の音楽20曲以上、
序曲、交響曲、四重奏や三重奏など室内楽作品、
合唱とピアノのための作品、
160曲以上のロマンスを作曲した。
これらの豊富な遺産の運命はドラマティックで、
450曲以上あるとされる作品の大部分は、
手稿のままであり、それらの多くは未完成であったり、
失われていたりする。」

これはドラマティックというより、トラジックではなかろうか。

「器楽曲はよく知られておらず、
演奏されることも、出版されることも稀であった。
アリャビエフの不当にも忘れ去られた作品が、
よく知られたロマンス同様、演奏家や聴衆に、
知られる日が来ることを祈るばかりである。」

とはいえ、ロマンスとて、
「ナイチンゲール」くらいしか、
知られていないのが実情ではないか。
まずは、このロマンスから、
知られるようにすべきではないか。

「アレクサンドル・アリャビエフは、
シベリアのトボリスクに生まれ、
1812年、ナポレオン軍ロシア侵攻の折には、
軍隊と共に、パリまで入城している。
1825年、アリャビエフは、偽りの殺人罪に問われ、
逮捕され、長期間の流罪となった。」

おかしい。
前回のCDでは、アリャビエフは、
シューベルトの死の年に流罪になったとあったはずだが。
あるいは25年から28年まで、
裁判か何かで、ごたごたしていたのだろうか。

また、「ナイチンゲール」のような民謡風のものは、
流罪になってから、コーカサス地方に、
転地療法した際の作かと思っていた。

とにかく、ここに収められた2曲は、
このナポレオン戦争から、シベリア流罪の間に、
書かれているようだ、という事は分かる。
では、「ナイチンゲール」は、シューベルトの歌曲と、
同時代の作品だったということになる。

以下、読むと、1828年に追放になったのは、
事実のようだ。

「1828年、作曲家は故郷のトボリスクに追放となり、
1831年にコーカサスに、後にオレンブルクに飛ばされた。
皇帝ニコライ一世によって、
警察の監視下で、モスクワに住む事が許されたのは、
やっと1843年になってからであったが、
それでも公衆の前に姿を現わすことは許されなかった。
コーカサス、ウラル、シベリアの
民衆の音楽に対する彼の知識は、
その音楽の多くに見て取ることが出来、
それは特にプーシキンの詩による、
メロドラマ『コーカサスの囚人』や、
オペラ『Ammalat-Bek』に見てとれる。」

今回、ここに取り上げられた作品は、
まだ、罪人扱いされる前のものということで、
こうしたコーカサスの民衆の音楽は、
まだ影響していないのだろうか。

「一般的に、アリャビエフの音楽のスタイルは、
古典期からロマン派の遷移期の特徴を持っている。
彼の四重奏曲第1番、第3番は、
それぞれ、1815年、1825年に書かれた。
これらは彼の初期のもので、
古典派の原理に従っている。
典型的な4楽章構成であり。
生き生きとしたソナタのアレグロ、
緩徐楽章、メヌエット、きびきびとした終曲からなる。
第3番は、例外的に緩徐楽章の前にメヌエットがある。

アリャビエフの古典主義は、
ベートーヴェンとロッシーニの時代を想起させ、
特に、メヌエットが性急で、エネルギーに満ちている。
さらに特徴的なのは、以下の点である。
第1カルテットの終楽章が、
ゆっくりとした、悲しげな序奏を有する点で、
これは、終曲や、曲全体の楽しげな風情と、
大きなコントラストをなしている。
また、第3カルテットの第3楽章の、
ナイチンゲールの主題による変奏曲も、
悲しみにくれた叙情的な表現も同様である。
作曲家はこの楽章を、
ロシア歌曲『ナイチンゲール』によるアダージョ、
と呼んでいるが、
これはアリャビエフの時代には、
民謡のみならず、民謡の精神で書かれたロマンスも、
同様にロシア歌曲と呼んでいたからである。
アリャビエフの作品は、ロシアにおける、
この分野の最初の作品で、
その熟達した集中力によって、
ベートーヴェンやシューベルトの
四重奏曲に近づいている。
アリャビエフの四重奏曲に、
我々は、その才能と共に、
ロシアの作曲家によって独自に解釈された、
西欧の古典の伝統を聴くことができる。」

第1番の第1楽章は、ハイドン風の簡素なリズミックなテーマで、
6分ほどのアレグロ・コン・スピリート。

主題労作に入りますよ、という感じが見え見えの開始部である。
いや、シューベルト少年期の作品もこんな感じだったような気がする。
1815年は、まさに少年シューベルトの創作力が爆発した年であるが、
アリャビエフは10歳年長なので、28歳の青年であった。

これまでのCD解説でも、
この人がどのような音楽教育を受けていたかは、
全く書かれていないが、才能ある人であったはずなので、
この時期に書くとすれば、こんな音楽になるものと思われる。

第2楽章のアダージョは、
ベートーヴェンの作品のように深い瞑想を感じさせるアダージョ。
1815年という年には、ベートーヴェンも、
まだ、後期の作風には到達していないが、
(というかスランプ期である)
それを示唆するような世界が模索されていることは大変興味深い。
時折、ヴァイオリンによる名技的な装飾が入るのが面白い。
1948年の録音時点、
演奏しているベートーヴェン四重奏団は、
ショスタコーヴィチから、ベートーヴェンの精神で書かれた、
作品を献呈され初めており、
こうした内省的な表現には、異常な集中を見せている。
7分かけて、じっくり歌われる。

第3楽章は、ロッシーニの影響などと、
解説には書かれていたが、
明るく飛び跳ねる気持ちのよいメヌエット(アレグロ)で、
これまた、若い頃のシューベルトという感じ。
ハイドンなどを手本にして、当時の感覚を入れ込むと、
こうした音楽になるのだろうか。

トリオは、オンスロウとか、フンメルを思い出す、
半音階で浮遊するような憧れの調べ。
これも美しい。
この楽章は5分に満たないが、充実した内容である。

アリャビエフはパリにいたようなので、
オンスロウあたりの音楽は知っていたかもしれない。

終楽章は解説にもあったように、
沈鬱な序奏が置かれ、7分15秒と最長の音楽となっている。
主部は軽妙に第1ヴァイオリン主導型で推進していく、
力強い音楽だが、内声部も充実していて迫力がある。

アリャビエフ初期の作品というが、
家庭内で閉じられていた、
シューベルトの初期作品と、
同等以上の工夫と魅力がある。
(同じ年、1815年の四重奏では、
シューベルトには「ト短調」という素晴らしい作品があって、
この曲に対しては、私は優位を譲るわけにはいかないが。)

あながち、解説者が言っていることは嘘ではない。
演奏会の前半を盛り上げること受け合いである。
おそらく、うるさいサロンで鍛えられた手腕であろう。

このCDの録音、60年も前のものながら、
いくぶん潤いに不足するが、ノイズもなく、
この初めての作品鑑賞にはまったく支障はない。

また、前時代的様式の老人集団の演奏かというと、
そんな感じはまったく感じなかった。

弦楽四重奏曲第3番は、10年後の作品で、
第1楽章のアレグロから、
楽器の扱いは自由度が増して、
全楽器が大きな表情で歌い合い、
交響的とも言える表現になっていて、素晴らしい。
これなども、私が思い浮かべるのはオンスロウの音楽である。
特にロシア的ということはないが、魅力的である。

第2楽章は、ぐるぐる旋回する、
幾分強引なメヌエットであるが、
ピッチカートなども彩りを添え、
まことにきらびやかな表現が満載となっている。
音がぎっしり密集して、
これなども交響曲的と言えるかもしれない。
アリャビエフには交響曲があるというが、
きっと面白いものに違いない。

第3楽章は例の美しい歌が切々と歌われるアダージョである。
転調が行われ、おっ、雰囲気が変わったな、
と思わせるが、やはり歌われているのは、
「ナイチンゲール」である。

とはいえ、第1番のアダージョのような、
内面の声というより、美しい幻想の一瞬といった感じ。

前回、シューベルトの「ます」も、
アリャビエフの「夜鶯」も、共に、
動物に自然界の自由さを仮託した表現、
などと書いたが、まさか、変奏曲になっている所まで、
一緒とは思わなかった。

まだ出版もされていない時期、
作曲から数年は経過しているが、
シューベルトの「ます」の五重奏曲を、
ロシアに紹介した人などはいないだろうなあ。

終楽章は、切迫感に満ちたアレグロで、
これも、短調や長調が変幻自在に駆使され、
素晴らしい高揚感を形成している。

ベートーヴェン四重奏団は、共感に満ちた、
集中力のある表現を見せている。

さて、このCDには、見開きで、
ベートーヴェン四重奏団の演奏風景が、
(セピア調白黒写真)掲載されているが、
演奏者に関する解説にもスペースを取っている。

「ベートーヴェン四重奏団は、
ディミトリ・ツィガノフ、ヴァシリー・シリンスキー、
ヴァディム・ボリソフスキー、セルゲイ・シリンスキーからなり、
1923年にモスクワ音楽院四重奏団として結成された。
1931年、そのベートーヴェンの四重奏曲の、
輝かしい連続演奏によって新しい名称を得た。
この四重奏団は、この四人の音楽家たちによって、
40年以上続き、長寿記録の一つとなっている。
この時期、600曲以上を演奏し、
そのうち200曲以上を録音している。」

ソ連の団体では、ボロディン四重奏団とか、
グリンカ四重奏団、タニェーエフ四重奏団とか、
その国の作曲家の名前の四重奏団が多いのに、
この団体だけが、何だか変な団体だと思っていたが、
このように、権威も由緒もある、
しかも、アカデミックな団体であるとは知らなかった。

「アリャビエフの四重奏曲は、
この四重奏団のクリエイティブな発見の一つである。
これらの四重奏曲は、作曲家の生前には、
サロンにて演奏されたが、その後失われていたもので、
1948年、楽譜がモスクワ音楽院の地下室で発見され、
復活初演が、この四重奏団によってなされた。」

このようにあるように、過去の研究もばっちりの団体。
あまり、ここまでやる団体というのは例を見ない。
アマデウスもスメタナもジュリアードも、
普通のレパートリーしか録音していない。
名門というものはそういったものかと思っていた。

「全メンバーは、モスクワ音楽院で教鞭をも取り、
年を経るにつれ、新しいメンバーに移り変わった。
ニコライ・ザヴァニコフが、
ヴァシリー・シリンスキーに代わり、
フェードル・ドルジーニンが、
ヴァディム・ボリソフスキーに代わり、
ユージン・アルトマン、オレグ・クリサが、
後年、メンバーに加わっている。」

ちなみに、ショスタコーヴィチは、
このヴァシリー・シリンスキー(第2ヴァイオリン)の、
追悼のために、弦楽四重奏曲第11番を書いたとされ、
この四重奏団の崩壊に従って後期の作品を書き進めた。

12番はツィガーノフに捧げられ(これは追悼でも退任でもない)、
第13番はヴィオラのポリソフスキー退任の音楽で、
14番はチェロのシリンスキーのための音楽。

最後の15番に至っては、
ベートーヴェン四重奏団が初演するはずだったのに、
今度はチェロのシリンスキーが急逝し、
初演の四重奏団が変更になっている。

大木正興氏が、メンバーがアンバランスだと書いたが、
そんな問題を越えて、この四重奏団が、
ショスタコーヴィチの音楽と、
密接に繋がっていたことに思いを馳せるべきなのであろう。

「この四重奏団のレパートリーは、
モーツァルト、ハイドン、ベートーヴェン、
シューベルト、シューマン、ブラームス、
チャイコフスキー、タニェーエフ、
グラズノフ、プロコフィエフ、ショスタコーヴィチ、
ストラヴィンスキー、ヒンデミットであり、
この四重奏団に、ショスタコーヴィチ、
ミヤコフスキー、シェバーリン、ヴァインベルクが、
作品を捧げている。
このアンサンブルはショスタコーヴィチの
全四重奏曲を初演している。」

この全四重奏という表現は、十五番の例からしても、
ちょっと、言い過ぎであろう。

「また、ギレリス、リヒテル、ユーディナ、ロストロポーヴィチ、
オイストラフ、コゾロフスキーのような、
有名な音楽家が、ベートーヴェン四重奏団と共演している。」

このようにあるように、この四重奏団は、
マリア・ユーディナと共演し、
シューベルトの「ます」を録音してくれている。

ショスタコーヴィチさえ、
畏敬の念を持って接していたと思われる、
この巫女のようなソ連の女流は、
バッハの演奏で知られ、
モーツァルトではスターリンに賞賛され、
素晴らしいシューベルトのソナタも残しているので、
これは聴きモノであると思った。

録音年は分からないし、コントラバスも誰か分からない。
書いてなさそうである。
これまたロシア語満載で、レーベル名も読めない。
解説もさっぱりわからない6枚組に収録。

しかし、この「ます」の演奏は、
何とそっけない演奏なのであろうか。
序奏からして、ピアノは、ばーんちゃらららと弾き飛ばし、
ベートーヴェン四重奏団も、その迫力に押されたのか、
何だか、急にテンションを上げて、
すごいスピードで弾き進めて行く。

とにかく、ものすごいスピードであることは確か。
弦は、時折、じっくりと歌おうとするのだが、
ピアノが入って来るタイミングがせかせかしているので、
全員が興に乗っているわけではなく、
四重奏団が煽られているものと思われる。

しかし、ユーディナに何が起こったのであろうか。
この幻視者は、何かをそこに見いだしたのであろうか。
指がもつれる程に、夜叉のように猛進している。

咳が聞こえるので、ライブ収録であろうが、
単に、早くコンサートを終えて、
帰りたかっただけのような感じが強い。

しかし、四重奏団の方はベストを尽くして、
燃焼しようとしているようである。

第2楽章は、内省的な音楽なので、
ユーディナに向いていると思われるが、
弱音重視で、よく聞こえない印象。
ただし、弾き飛ばし感はない。
音が歪むのが残念だが、
弦楽は各奏者の美しい歌が味わえる。

第3楽章は、ツィガーノフも一緒になって、
ものすごいテンションになって、
まるでスポーツか何かのように、
ピアノと火花を散らしている。
もう、彼らの頭には、シューベルトの事など、
すっかり無くなっているようである。

さて、アリャビエフ同様、有名な歌曲が主題になった、
第4楽章。
ここで、ようやく、自分たちが、
シューベルトを演奏していた事を思い出したようである。
弦楽だけの主題呈示は、粋な節回しも聴かせて、
大木正興氏が書いていたような古風な表現が聴かれる。
しかし、ピアノが入って来ると、
緊張感が漲り、各変奏の間も、ゆっくり取らせて貰えない感じ。
変奏曲の個々は、しっかりシューベルトを歌っているが。

ユーディナは、指が絡みながら、
凶暴な表現に傾斜しがちである。
ピアノのハンマーが叩きつけられ、
いったい、何を怒っているのだろうか。
この曲を根本から呪っているのだろうか。
あるいは、この四重奏団が嫌いなのだろうか。
または、何かが降臨して、彼女を駆り立てたのだろうか。

終楽章もめちゃくちゃがさつである。
ここでは、弦楽四重奏も共犯で、
クレイジーな状態に陥っている。
あるいは、背後に暗殺者の影があって、
何か脅迫されてでもいるのだろうか。
まるで戯画のようながちゃがちゃ状態で、
完全にリズムが硬直している。
ここまで潤いのない演奏は初めて聴いた。

ある意味、恐ろしく貴重な体験であった。

ライブらしいが、拍手がないのが残念。
聴衆はどんな反応をしたのだろう。


得られた事:「ベートーヴェン四重奏団の演奏、アリャビエフに優しく、シューベルトに厳しい。」
by franz310 | 2009-12-20 12:27 | シューベルト
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